初めて地引集材で使った繊維製ロープDynaforceの思い出


弊社が初めて地引集材に繊維製のロープを試用したのは平成20年でした。 それからもう早10年ほど経ちます。

 

繊維ロープとの出会いは2007年(平成19年)にオーストリアで開催されたアウストロフォーマ(林業機械実演会)の会場でした。 何気なく大型の最新の機械の横に忘れられたかのようにかけられていた青いロープ。。。それがダイニーマと言う繊維で編まれたロープでした。 繊維と言ったら日常的に衣服に使われている綿、ポリエステル、アクリル、毛、ナイロン、麻であれば知っていましたが、ダイニーマと言う繊維については全く知りませんでした。 ましてやその繊維・ダイニーマの開発に日本の大手繊維メーカー東洋紡績(株)が関わっていたとは全く知りませんでした。 とにかくワイヤーロープと強度は同程度で軽くていいらしい。。。そんな感想を持って帰国しました。

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(2本を一本に繋げたところ)

 

当時、岡山県は林野庁の支援事業である新生産システムのモデル事業地域に選ばれており、選ばれたモデル地域の事業体だけが応募出来る林業生産流通革新的取組支援事業と言うのがありました。そこで弊社フォレスト・デザイン事業部の前身である前田林業(株)が「超高強力ポリエチレン繊維ザイルとチョーカーワイヤーを使用したウィンチ集材」として応募したところ採択されました。 その時はまだ日本のメーカーの存在を知らずオーストリアのGrube社製ダイナフォースを輸入して地引集材における生産性、安全性を京都大学森林利用学研究室のご協力のもと調査、検証しました。(オーストリアのGrube社の製品を使用したため、ロープではなくドイツ語のロープの意味のザイルを当時は使用していました。)

 

最近になってその当時使用したロープのサンプルが出てきました。10年間ほとんど日に当たることがなかったので色が少し薄くはなっていますが、目立った傷みもなく強度も落ちていないように見えます。実際に東洋紡績が発表している資料でも耐紫外線は他のナイロンなどの繊維より引張強度が落ちない結果が示されています。

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ダイニーマの特徴としては比重が0.98でスチールの約1/8ほどで水に浮くほどの軽さです。湿強度/乾強度は100%で水が入り込むことにより強度低下の心配はありませんが、繊維間への水の浸透により重みが増す場合があります。引張強度がスチールの約2倍、弾性率がワイヤーロープの1/2で屈曲性に優れています。伸び率も3-5%程度でスチールの2%よりは心持ち高くなる程度です。

 

問題は軟化点が148度で、ケプラー430度、ベクトラン400度に比べてもかなり低い数字であり、これが摩擦に弱く摩耗しやすい原因となっています。弊社の現場でも毛羽立った摩耗状態を見ると強度に不安があり、最初の一本を使い切ってからワイヤーロープを地引集材に再び使用していました。しかし、一人の社員の「あの軽さが忘れられない!」と言うひと言から再び繊維ロープを地引集材に使用するようになり現在に至っています。あのひと言がなかったら、今でも重たい冷たいワイヤーロープで手を怪我しながら必死に担いで山を上ったり下りたりしていたかもしれません。そして、あのひと言のおかげで最近のような日本の林業・素材生産業への繊維ロープの広がりがあるとしたら、あのひと言が日本の林業現場の安全性と生産性の向上にもたらした効果を私たちは素直に喜んでいいのではないかと思っています。

 

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左;東京製綱ロープ社製 エースライン12㎜

右;Grube社製 Dynaforce 10㎜

 

一本の青いロープとの出会いが多くの方との出会いを生み、つながりを広げてくれています。

 

前田多恵子