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2018年4月16日 オーストリア・ヨーロッパ関連
2018年春オーストリア視察報告 マイヤー・メルンホフ社社有林&ブルック森林技術専門学校
2018年3月26日~30日 兵庫県議会自民党林業振興議員連盟のオーストリア林業・木材産業視察研修のコーディネーターとして、ジンメリングバイオマス発電所、ブルック森林技術専門学校、マイヤー・メルンホフ社 社有林、世界で一番高い木造展望台ピラミッドコーゲルをご案内してきました。
1. マイヤー・メルンホフ社社有林でタワーヤーダを見学
マイヤー・メルンホフ社はオーストリアで最大の民間森林所有企業です。約32,400haの土地を所有し、その内の森林は約28,000ha、その森林の中でも経済林は約21,400haになるそうです。所有する森林は標高430m~2,200mに位置しており、平均斜度は約30度あるにも関わらず、年間約18万㎥の原木丸太を生産し、グループ会社であるマイヤー・メルンホフ製材会社、マイヤー・メルンホフ製紙会社に供給しています。その原木生産を可能にしているのが、自社で開発したタワーヤーダと整備された林業・作業道です。林道・作業道の総延長は約1,400㎞、路網密度は約43m/haと言うことになります。オーストリアでは豪雨や強風で風倒木が出たときには林業・作業道の作設費用の支援助成があるそうですが、それ以外は自己資金で開設するそうで、1,400㎞の内、助成金をもらって開設した林道・作業道は3%ほどだそうです。その林道・作業道の下には小川沿いにある小型の水力発電用のパイプが通っているものがあると今回初めて聞きました。林道・作業道を森林整備、管理のためだけにとどめておかないオーストリア林業の革新さ。ここでも100歩も1,000歩も前を行かれているように感じました。
マイヤー・メルンホフ社社有林
山頂にはまだ雪が残っており、現場視察中に時折雪が舞っていました。
今回はまずそのタワーヤーダの生産現場から視察させていただき、タワーヤーダの特性、特徴、構造を教えていただきました。講師はオーストリアの森林官として第一人者として知らない人はいないロシェック氏です。タワーヤーダが完成するまでを順を追って説明していただきました。工場内はきちんと整理整頓されています。オーストリアではトラックが発注から納車まで6か月かかるそうです!
説明をして下さるロシェック氏(上・中央)
タワーヤーダの構造を勉強した後はいよいよ稼働する現場へ。今回はリーバー社が請け負って皆伐事業をしている現場を視察しました。リーバー社は現社長が2代目で2011年のオーストリア林業展Austrofomaでマイヤー・メルンホフ・フォレストテクニック社のタワーヤーダを見て、購入を決めたそうです。少し小さく間伐に適したワンダーファルケと皆伐に適したシンクロファルケの2台のプロセッサのついたトラック搭載型のタワーヤーダを所有しています。従業員は9名と言うことでした。
オレンジのヘルメットがリーバー社長
向かって右が通訳のカリンさん
皆伐面積は約2ha(オーストリアでは2ha以上の皆伐は禁じられています)。約120年生のトウヒだということで、直径60㎝を超える原木もありプロセッサで造材することが不可能なため、通常は2名体制で作業を行うそうですが、私たちが視察した日は5-6名の作業員が現場にいるようでした。1日当たり160㎥を生産し、2haの皆伐であれば通常4-7日で作業を終えるそうです。
人間と比べると木の大きさがわかります。
作業現場にいたのはこの一台
タワーヤーダの購入にあたっては、オーストリアでは機械の購入について支援事業と言うのは一切ないので、1/3を自己資金で用意することが出来ると、2/3までは銀行から資金融資をしてもらい、5年(60回)で返済するそうです。
同じように急傾斜地で作業をしながら、この生産性の高さはどこから来るのだろうか。。。
一つ言えることは機械の少なさでしょうか?
トラックに搭載したタワーヤーダとプロセッサのみのオーストリア。
日本だったらプロセッサ、集材用のウィンチ付きのグラップル、フォワーダ、トラック搭載用のグラップル。これらに加えて弊社では仕分け用のグラップルも使用しています。
トラック搭載型プロセッサ+タワーヤーダのコンビネーションマシンが高価だ高価だと言うけれど、日本の現場で使用している機械一式の金額はもっと高いように思います。そういうところを見直してみるべきなのかもしれません。
2.ブルック森林技術専門学校
兵庫県でも2017年春に森林大学校が開校しました。その教育システムの参考に少しでもさせてもらおうと100年以上の歴史のあるブルック森林技術専門学校を視察しました。アルドリアン校長自らご案内いただきました。
オーストリア帝国時代下の1900年10月10日に「オーストリアのアルプス地方のための林業技術アカデミー」として創設されたブルック森林技術専門学校は、1974年に職業訓練学校となり数々の森林官を輩出してきました。現在は1学年約80名の学生がおり、5学年で410人が在席しているそうです。オーストリア全土から学生が来ているので318人が寮で暮らしているそうです。女子生徒の割合が約10%、他国の学生は1%だそうです。国立の学校のため、国からはもっと女子生徒の割合を増やすように言われているそうですが、やはり日本と同じで入学を希望する女子生徒は少ないようです。他国の学生の割合は1%。これはオーストリアとEU諸国での森林教育のシステムや資格が統一されていないことと、一般教養としての英語、ドイツ語、数学のレベルが高いためドイツ語を母語としない学生は入りづらいのだろうとアルドリアン校長は言われていました。国立の学校なので学生は授業料を支払うことはありませんが、寮に入った場合は月370€を支払う必要があります。
説明をして下さるアルドリアン校長
オーストリアでは消防士の次に人気のある職種が森林官です。世の中のためになって、高い技術と知識を持ち、自然の中で働いて稼げる森林官は人気のようです。ただ、コスト削減で森林官になりたい人は多いけれど、就職先は減少しているとのことでした。卒業生の2/3は林業・木材産業に従事し、残り1/3は更に勉強を続けるためBOKU(ウィーン土壌大学)へ進学したり、他分野へ就職したりするそうです。毎年国家資格である森林官には40〜50人が合格し、その内の70%が森林官として働いているそうです。この森林官と言う職業に就くには、オーストリアではブルック森林技術専門学校を卒業して森林官補佐として2年間の経験を踏み国家試験を受けて合格してなれるそうです。
体育館、ジム、音楽室、理科実験室、林産加工実習室など様々な部屋がありました
現在、ブルック森林技術専門学校では82人が勤務しており、51人が教鞭を取っているそうです。
学校の各種イベントを行う際には様々な企業にスポンサーとして支援してもらい、学生との交流の機会を確保しているそうです。
私自身がブルック森林技術専門学校を視察したのはこれで2度目となりました。今回訪問するにあたって楽しみにしていた部屋が2つあります。1つは鳥類、動物類のはく製を展示した部屋です。中にはもうオーストリアで見られなくなった鳥類、動物もいます。第2次世界大戦下やその後のソ連による支配下では貴重なはく製が没収されないように隠したことも今回教えて頂きました。帝政時代から2度の大戦、ソ連による支配。。。この学校の歴史の長さを感じた瞬間でした。
はく製を展示した部屋
もう一つは射撃室です。森林官の重要な仕事の一つとして狩猟が位置づけられています。マイヤー・メルンホフ社社有林を視察した際も各皆伐跡地に1つは狩猟ための櫓がありました。ブルック森林技術専門学校では、銃を取り扱う資格を取得するため、射撃の授業があります。そのための射撃室で、ブルック森林技術専門学校の部屋の中で一番お金のかかった部屋だとアルドリアン校長は説明して下さいました。
射撃室
アルドリアン校長の説明の中で印象深かった話があります。それはチェーンソーの話です。1970年代にチェーンソーが登場すると、オーストリアでも、急激にチェーンソーによる事故が増えてそうです。そこで、オーストリアでは、事故を減らすためにトレーニングが実施され、1990年代からチェーンソーの事故を予防する衣料が生まれたそうです。日本にチェーンソーが導入されたのも同じころです。オーストリアに遅れること20数年、日本もやっとチェーンソーの防護衣料着用が法的に整備されつつあります。また、トレーニングも伐倒練習機が生み出されました。この20年のギャップは何なのでしょうか?
右:アルドリアン校長
中央:筆者
左:ロシェック氏
何回視察に行っても必ず何か新しい発見のあるオーストリア林業・木材産業。それはオーストリア林業・木材産業がいつも更に上を目指して発展して行っている証なのでしょう。
前田 多恵子