オーストリアから学ぶA材需要拡大の可能性


日本の森林経営はA材の需要によって成り立っていると言っても過言ではありません。しかしながら、住宅の洋風化、住宅需要の多様化によりA材需要の減少に歯止めがかからない状況です。今後ますます住宅着工の減少が続けば、日本の森林経営の持続性をも喪失しかねません。

反対に同じ山岳林業でありながら林業経営に成功しているオーストリア。その成功の理由の1つは「付加価値の高い商品の開発、利用」への飽くなき挑戦があると思います。今回はその事例の1つをご紹介したいと思います。

現在、ヨーロッパ最大級と言われるウィーンのAspern-Seestadt開発地域では地上84m24階建の世界一高い木造高層ビルが計画されています。

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設計を担当するのは若い女性建築設計家Palfy Caroline氏です。Palfy Caroline

木材コンクリートハイブリット工法を採用することにより建物の76%を木材が占め、コンクリートのみで建てた場合より2,800tの二酸化炭素が削減出来ると紹介されています。

木材コンクリートハイブリット工法とは、建物の構成要素となる中心部、天井、枠組みを、木材とコンクリートの組み合わせて工場で事前に制作し、現場において組み立てて建築する工法です。

 

イメージ図(参照元: Cree GmbH-Austria)

建築過程1 建築過程2 建築過程3 建築過程4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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この工法の特徴は以下があげられます。

①地上100m以上、30階以上の高層建築が可能

②工期が短い(地上100m以上、30階以上で約半年)

③総工費が安い

④資源やエネルギーの消費が少ない

⑤長期にわたる使用が可能

⑥レイアウトの自由度が高く、変更が容易

⑦二酸化炭素を長期間固定し、排出量が少ない

⑧木材の使用度が高い

⑨見えるところにはA材を、見えないところには合板、ボードと多種多様な木材の種類を利用

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⑩多々ある部材の供給源として地方の木材会社や商社に商機が生まれる

 

このような特徴はヨーロッパ委員会の資源の効率化に対するファイブ・ゴールド・ルール(節約、リサイクル、持続性、削減、価値)の条件を満たしています。

 

既にオーストリアでは2件の施工実績があります。1件はCree社本社で2012年に地上27m8階建の建物が完成しています。もう1件はIllwerke社の地上5階建、全長120mの社屋です。

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昨今、日本では木材需要の数字の上昇だけが注目され、森林経営の改善に必要なA材需要の拡大については議論されてきませんでした。しかし、本当に日本の森林経営を改善するのであればA材の需要拡大を真摯に考え

なければならないでしょう。残念ながら、しばらくは住宅の着工数は期待できないでしょう。そうであれば、かつて足場が木から鉄に、電柱が木からセメントに置き換えられたように、いまある需要を木材に置き換えていくことを考えなければいけないのではないでしょうか?