ウィーンのジンメリング(Simmering)バイオマス発電所に行ってきました


2018年3月26日~30日 兵庫県議会自民党林業振興議員連盟のオーストリア林業・木材産業視察研修のコーディネーターとして、ジンメリングバイオマス発電所、ブルック森林技術専門学校、マイヤー・メルンホフ社 社有林、世界で一番高い木造展望台ピラミッドコーゲルをご案内してきました。

集合写真 作業現場 横

(マイヤー・メルンホフ社社有林にて集合写真)

 

さて、最初の視察先はジンメリングバイオマス発電所でした。1978年に国民投票で原子力利用の放棄を決定したオーストリアは、現在水力、太陽光、風力、バイオマスの再生可能エネルギーによる電力生産が全体の70%近くを占め主流となっています。「再生エネルギーの割合を増やそう」との掛け声だけで実際の道筋の立てられない日本から考えると1歩や2歩どころではなく、100歩も1,000歩も進んでいるような印象を受けます。

日本ではバイオマス発電のイメージが強いオーストリアですが、水力発電がバイオマス発電の9倍もあります。実際に今回の視察研修でも近隣の小規模集落や工場に電力を供給している小型の水力発電施設を何度か目にすることがありました。河川に恵まれた日本は、オーストリアのバイオマス発電だけではなく水力発電にも学ぶことが多いように感じました。

 

話が横道にそれてしまいましたが、今回はウィーン市が100%の株主であるウィーン電力株式会社の3つあるバイオマス発電所の内、最大規模のジンメリングバイオマス発電所を視察してきました。ジンメリングバイオマス発電所はウィーン空港からウィーン市への高速道路沿いにあります。2018年から発電所内での撮影が禁止され写真を撮影出来たのは模型で説明を受けている場面だけでした( ノД`)シクシク…DSC_0606

2006年10月から稼働しているジンメリングバイオマス発電所は、ウィーンの41,000世帯に電力を供給し、17,000地区に熱供給をしています。ウィーン電力㈱では約2,000の社員が働いており、その内ジンメリング発電所では日中は約130人、夜間は約30人が勤務しているそうです。日本ではジンメリングと言うとバイオマス発電だけしているように思われがちですが、ガスタービンが3台、蒸気タービンが4台あり天然ガスでの発電がバイオマス発電の20倍にもなり主力は天然ガス発電のようです。

今回私たちに説明して下さったのはマルティン・トワグナーさんと言うまだ若い社員さんでした。普段はエネルギーの節電アドバイスを担当されているマーケティング部門の方だそうです。

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(模型で説明するトワグナーさん)

 

ジンメリングバイオマス発電所の発電施設はシーメンス社製で木材チップに砂を混焼して発電しているのが特徴です。どうして「砂」を混焼するのか?砂は空気より熱を吸収しやすいので熱の媒体として、またボイラー内の清掃にも有用とのことで混焼しているとの説明でした。砂はオーストリア国内から調達し、リサイクルして使用した後は炭としてゴミ捨て場に廃棄するそうです。

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私たちの関心の高い木材チップについては、ウィーンはハンガリー、チェコ、スロバキアとの国境も近いのでこれらの国を含めて100キロ圏内から年間60万㎥を調達しているそうです。当初はドナウ川沿いのチップ工場で原木丸太をチップにして貨車に積んで鉄道で運ぶ計画をしていましたが、近隣周辺の住民からの反対があり断念しトレーラーでの運搬となりました。私たちが視察見学している際も大型のトレーラーが間断なく木材チップを燃料置場に運んできて投入していました。燃料置場からサイロの間に選別機があり、金属製品や大きすぎる木材チップは取り除かれ、大きすぎる木材チップは再度ドナウ川沿いのチップ工場に送り細かい木材チップにして利用するそうです。サイロは約2日分の木材チップを貯槽が可能とのことでした。

冷却用の水はドナウ川の水を利用しており、1/6しか取ってはいけない、排水する際は30度以下でなど厳しいルールがあるそうです。

 

2017年の実績で行くと、ウィーン電力会社では年間1200MWhを発電しており、それはウィーン市の40%の電力を賄える発電量で、その内20MWhがバイオマス発電に由来とのことでした。バイオマス発電が年間8000時間稼働するのに対して、化石燃料に由来するガスタービンの発電時間は年間3000〜4000時間で半分かそれ以下であるのは、熱利用の少ない夏季はバイオマス発電を優先的に稼働するためだそうです。バイオマス発電の効率は発電だけでは55%で熱利用と合わせると86%に上がるので、電気よりも熱で利益を出すという考え方だとの説明がありました。

 

オーストリアも日本と同じく電力の固定価格買取制度が導入されており、小規模な発電施設による電力ほど買取価格が高いのは日本と同じようです。そのため、オーストリア各地に小規模発電施設が無数に建設され、ウィーン市近郊だけでも50近い発電会社があるとのことでした。アンケート調査をすると「再生エネルギーを増やすべき」を選択する人は多いものの、電力を選択する際には一番に価格が重視する人が大半を占めることを考えると、発電コストの高いバイオマス発電について現行の固定価格買取制度がなくなってしまうと選択する人は減るのではないかとトワグナーさんは説明されていました。

 

最後に余談になりますが、原子力利用はしないことを選択したオーストリアですが、原子力発電所がないわけではありません。建設されたものの稼働することのなかったツヴェンテンドルフ原子力発電所(Zwentendorf)があり、内部の見学が可能な唯一の原子力発電所だそうです。

 

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業務でお忙しい中、私たちに2時間も懇切丁寧に説明し質問に嫌な顔をせずに答えて下さったトワグナーさんに感謝申し上げます。次回はマイヤー・メルンホフ社社有林、ブルック森林技術専門学校の視察についてご報告します。

前田多恵子